近年、社会全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進され、私たちの生活やビジネスのさまざまな領域がデジタル化されるなか、「リスキリング」という概念に注目が集まっています。
リスキリングとは、既存のスキルを再び習得する、あるいは新たなスキルを習得することを指します。具体的には、新しい職業に就いたり、成長が見込まれる社内の新たな業務に当たるために必要なスキルを身につけることを意味しています。
※参照:NHK解説委員説「「リスキリング」デジタル時代の人材戦略
DXの進行や新型コロナウイルスの感染拡大、働き方改革、少子高齢化といった現代社会の課題を背景に、リスキリングはさらに重要な取り組みとなっています。
一部の企業では、従業員全員をDX人材とするために、リスキリングを導入しています。例えば、富士通ではデザイン思考やアジャイルといった新たなスキルを強化するためのリスキリングの施策が行われています。
リスキリングの意義と必要性は、ビジネス環境の急速な変化に対応するためです。DXなどの影響でビジネスモデルのライフサイクルが短くなり、事業ポートフォリオの変革に伴ってDX人材を求める企業が増えています。しかし、労働人口は減少傾向にあります。その中で、既存の従業員に新たに必要となるスキルを学ばせることで、企業は新事業や新しい職種に対応できる人材を確保することができます。
デジタル変革の時代におけるリスキリングの位置づけは、これらの変化に対応するための重要な戦略と言えます。DXが大きな戦略転換であるほど、リスキリングの重要性は高まります。また、エンジニアやテクニカルな職種においても、”必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、新たなスキルを獲得すること”がリスキリングと位置付けられており、日本政府もDXやGX(グリーントランスフォーメーション)に対応する人材を育成するためにリスキリング支援に1兆円を投じる方針を示しています。
リスキリングを取り巻く海外の状況と日本との比較
海外企業では、リスキリングに対する積極的な投資や、新たなスキルの習得を支援するプログラムが盛んに行われています。また、これらの企業はリスキリングを組織全体の戦略の一部として位置付け、企業の競争力強化や成長を支える重要な要素と認識しています。
これに対して、日本ではリスキリングの必要性が認識されつつあるものの、教育やトレーニングへの投資が不足していたり、従業員自身の意欲や行動力が不足していたり、長時間労働文化がリスキリングの時間を確保することを難しくしているといった課題があります。
しかし、これらは必ずしも決定的な障壁ではありません。これらの課題を解決するための取り組みが進めば、日本の企業も海外企業と同様に、リスキリングを通じて競争力を強化し、新たな成長を達成することが可能です。そのためには、企業の意識改革だけでなく、政府の支援や教育制度の改革など、社会全体での取り組みが求められます。
日本企業におけるリスキリングの取り組み状況
日本企業においても、リスキリングは組織の成長戦略や人材開発の一部として取り入れられ始めています。例えば、大手IT企業のNTTデータは、従業員に対して最新のデジタルスキルを提供するためのリスキリングプログラムを実施しています。
※参照:DATA INSIGHT「デジタル人財化計画〜#1学び合いで全社員育成へ〜」
また、ファーストリテイリングは、従業員が新たなキャリアを探求するためのリスキリング機会を提供するプログラムを展開しています。
※参照:ファーストリテイリング教育全体像
しかし、これらの例はむしろ例外であり、多くの日本企業ではリスキリングの取り組みがまだ十分に行われていないのが現状です。
リスキリングが進まない原因として考えられる日本独特の文化や歴史的な背景
リスキリングが日本で十分に進んでいない背景には、歴史的な事情や文化的な要素が関わっています。例えば、日本の雇用システムは、長期的な雇用関係を前提としており、一度就職したら同じ企業で一生働くという価値観が根強いです。これは一方で、新しいスキルの習得やキャリアの転換を難しくしています。
また、日本の企業文化では、労働者は時間をかけて会社独自のスキルや知識を身につけ、その結果として昇進や待遇改善があるという風土があります。そのため、新しいスキルを習得するための時間や機会を創出することが難しい状況にあります。
さらに、日本の教育システムは、一般的に汎用的なスキルよりも専門的な知識を重視してきたため、新たなスキルを習得することへの意識が低いという問題もあります。
自ら学ばない日本人
「学ばない日本人」という問題は深刻であり、多くの統計がそれを裏付けています。リクルートワークス研究所が2021年と2022年に行った全国就業実態パネル調査では、自発的に学ぶ社会人の数はコロナが流行する前よりも減少し、学び直しやリスキリングの需要にもかかわらず、「勉強しない日本人」の状況が改めて明確化されました。
※参照:BUSINESS INSIDER ”勉強しない”日本の社会人。コロナでさらに状況悪化【5万人調査】
更に、パーソル総合研究所の調査でも、社外学習・自己啓発に取り組む人が少ないことが確認されています。また、先進国の中でも日本のGDPにおける人材投資の規模は極めて低く、企業による人材投資も、バブル崩壊後に大きく減少し、そのまま低水準で推移しています。
※参照:PRESIDENT Online「52.6%が読書すらしない…世界一学ばない国・日本の「1兆円リスキリング支援」が失敗すると言える3大理由」
結局、リスキリングが進まない原因は、社会全体が学び続ける習慣を持つことの重要性を理解し、それを実践する環境が整っていないことにあると言えます。一人ひとりが「学ばない日本人」の現状を直視し、それを改善するための具体的なアクションをとることが必要です。
リスキリングを阻む”3つの落とし穴”とその解決方法
リスキリング、つまり新たなスキル習得による職種やキャリアの変更は、現代社会における働き方の一つとなっています。しかしこの道のりは平坦なものではなく、多くの人々が途中で挫折し、既存の状況に固執する結果となることもあります。以下では、リスキリングに取り組む際に陥りがちな3つの主な落とし穴とその解決方法を解説します。
落とし穴1: モチベーションの維持が難しい
新たなスキル習得は時間と労力を必要とします。その道のりはなかなか厳しく、特に初期の段階では進歩が見えにくい場合があります。これがモチベーションを低下させ、最終的に挫折につながることが多いのです。
解決方法: 小さな成功体験の積み重ねと目標設定
具体的な目標を設定し、その達成過程を小さなステップに分けることが重要です。それぞれの小さなステップが成功体験となり、モチベーションを維持する糧となるのです。また、自身の進歩を定期的に確認し、記録することも有効です。
落とし穴2: 自己学習への時間とエネルギーの確保*
多くの人が職業と家庭生活の両立に苦労しており、新たな学びへの時間とエネルギーを確保することが難しいと感じることがあります。
解決方法: 効率的な学習法の導入とスケジュール管理
効率的な学習法の導入が重要です。例えば、スプリント学習(一定時間集中して学習した後に休憩を挟む方法)や活用学習(新たに学んだ知識やスキルをすぐに実生活で活用する方法)などが挙げられます。また、一日の中で最も集中力が高い時間帯を見つけ、その時間を学習時間とするスケジュール管理も重要となります。
落とし穴3: 適切な情報や教材の選択
リスキリングに必要な情報や教材はインターネット上に溢れていますが、その中から自分に最適なものを選び出すことは容易ではありません。
解決方法: 信頼性の高い情報源の選定とプロの助けの活用
信頼性の高い情報源を選定し、それらに基づいて学習を進めることが大切です。また、適切な指導者やコーチ、メンターを見つけ、そのアドバイスに耳を傾けることも効果的です。
これらの落とし穴はリスキリングのプロセスにおける共通の問題であり、それぞれに対する解決方法は一人ひとりの状況や目指す目標により異なります。しかし、上記の解決策を適切に活用すれば、リスキリングはよりスムーズで効果的なものとなるでしょう。
リスキリングの実践方法と効果的な学習方法
まず、リスキリングの第一歩は自己認識から始まります。自分が得意とするスキル、興味がある領域、またキャリアの中で達成したい具体的な目標を明確にすることが重要です。次に、それらの目標を達成するために必要な新たなスキルを識別します。このスキルギャップを埋めるために、何を学び、どのように学ぶべきかを計画します。
学習の方法は人により異なりますが、オンラインの教育プラットフォーム、ブートキャンプ、業界のセミナーやワークショップ、書籍やポッドキャストなどを活用することができます。学習スタイルに関しては、自分の理解度に合わせてペースを調整する自己学習、他の学習者との交流を通じて深化を図る集団学習、専門家から直接学ぶメンターシップなど、さまざまなオプションが存在します。
効果的な学習のためには、定期的に自分自身の進捗を確認し、必要に応じて学習計画を見直すことが重要です。また、新たに習得したスキルを実生活や仕事にすぐに活用し、実践的な経験を積むことでスキルの習得を加速することができます。
リスキリングを通じて自身のキャリアをどう形成・進化させるか
リスキリングはキャリア形成における強力なツールとなります。新たなスキルを身につけることで、自分が進みたい方向にキャリアをシフトすることが可能になります。たとえば、技術職からマネージメント職への移行、あるいは全く新しい分野への挑戦などです。
リスキリングはまた、キャリアの進化を促進します。これは新たなスキルが現職のパフォーマンスを向上させるだけでなく、将来的なキャリアの進路にも影響を与えるためです。たとえば、データ分析スキルを身につけることで、マーケティングの専門家は消費者の行動をより深く理解し、より効果的な戦略を立てることができます。
また、リスキリングにより柔軟性と適応性も高まります。これは自分自身のスキルセットを増やすことで、経済環境や職業環境の変化に対応する能力が向上するからです。これにより、未知の問題や新たなチャレンジに対しても自信を持って取り組むことができるようになります。
リスキリングはキャリアの選択肢を広げ、自身の能力を最大限に活用する機会を提供します。リスキリングを通じて自分自身を磨き続けることで、自身のキャリアを形成し、進化させることが可能です。
一人ひとりがリスキリングを進めることで、日本の働き方は変わる
現代の労働市場はますますダイナミックに変化しており、生涯一つの職業に就くという古い概念は短期間で取って代わられています。その背景には、テクノロジーの進歩、産業構造の変化、そして企業の需要が存在します。このような状況下、リスキリングは個々のキャリア、そして全体の労働市場に大きな影響を及ぼすものとなります。特に、リスキリングを個々のキャリア形成に取り入れることの重要性は否応なく高まっています。
リスキリングが個々のキャリア、そして日本の働き方全体に及ぼす影響
リスキリングにより、従来の職業や業界に固執することなく、市場のニーズに応じてスキルを習得し、自身のキャリアを進化させることが可能となります。それは新たなチャンスを追求するための道筋を作り出すと同時に、自身の職業的適応性を強化する効果があります。結果的に、個々のキャリアが自己実現のための道具となり、生涯学習と成長の一部となるでしょう。
この動きは、日本の働き方全体にも大きな影響を与えます。一人ひとりが自身のキャリアを主導し、リスキリングを進めることで、労働市場全体がフレキシブルで、より競争力のあるものへと変革を遂げるでしょう。これは企業にとっても、新たなスキルを持つ労働力を活用できるため、イノベーションと成長を推進する強力な推進力となります。
また、リスキリングは個々の仕事のパフォーマンスだけでなく、生活の質全体にも寄与します。新たなスキルを習得することは、自信と自己効力感を高め、個々の満足度と幸福感を増大させます。これは結果的に、健康で満足のいく生活を過ごすための重要な要素となります。
リスキリングを自分のキャリアに取り入れることの重要性
リスキリングを自分のキャリアに取り入れることは、生涯学習の一環として、また自身の職業的適応性を維持・向上させるための重要な手段です。技術進歩や経済の変化に対応するため、また新たなチャンスを追求するためにも、自分自身のスキルを定期的に見直し、更新する必要があります。
加えて、リスキリングは自分自身のキャリアを自分でコントロールするための重要なツールです。自分のキャリアパスを自分で定義し、自己実現を追求することは、より充実した職業生活を送る上で必要不可欠な要素です。
まとめると、リスキリングは個々のキャリア進展だけでなく、働き方全体にも大きな影響を及ぼします。技術の進歩や市場の変化に対応するため、自身のスキルを継続的に更新することは必要不可欠です。その結果、一人ひとりがリスキリングを進めることで、日本の働き方は必然的に変わっていくことでしょう。リスキリングはキャリア形成の新たなパラダイムであり、それを自身のキャリアに取り入れることで、働き方の新たな可能性を広げることができます。
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